10月第1週

「理想的な福祉国家」とされるスウェーデンも、裏を返せば「開かれた全体主義」というほどの鬱屈した事情を抱えており、モデルケースにする前になぜそれが可能になったか精神風土を確認しなければならない。とはいえ自分は福祉国家の仕組みや現状を知りたかったクチなので、この本はちょっとお国柄紹介に振れすぎている感があった。日本と似ていると言われるけど内実は全然違うそうな。
 
首塚の上のアドバルーン (講談社文芸文庫)
後藤 明生
講談社
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(読んだのは単行本)
住まいの近所に見つけた首塚をめぐる、平家物語太平記などのテクストからテクストへの彷徨。ほんの些細なモノへの注目で迷宮を見出し、道筋をたどることで迷宮の露頭である現在へと至る。そこにはピラミッド型の一個の時計がある。読んでいる間はさほどでもないが我に返れば世界が別の意味を持ちはじめるような、いたるところに迷宮があることに気づかせてくれる、そんな小説だった。細部の謎めいたほのめかしが絶妙、引用を除けばさっぱりした文章もいい。これはうまいなあ。
 「誰が話そうとかまわないではないか」というベケットの言葉を枕に、作者の消滅の確認と、消滅した作者とは現在何なのかが論じられる。作者とはもはや個人に帰せられるものではなく、テクスト群を社会的に浮き上がらせる、いわば機能として位置づけられる。この機能=作者=主体はシステムと結びついているが故に文明のあらゆる形態において可変的である。ありうる形態としてフーコーの提示する匿名的な言説空間が、インターネットで実現されている、と感じた。
 
現代思想の遭難者たち 増補版
いしい ひさいち
講談社
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(読んだのは旧版)
いろんな人がいるんだなーとニヤニヤしながら読む。紹介されている全員が嫌なやつで素敵。これを読んで現代思想が把握できるわけではないけど、とりあえず名前を知るきっかけにはなったかな。
 
幻想絵画館
幻想絵画館
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倉橋 由美子
文藝春秋
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20枚の絵に連作掌編が添えられている。桂子さんシリーズの慧君を主役としたもので、このあとに『よもつひらさか往還』が続くと考えてよさそう。先にそちらを読んでいたために、慧君のネットワークや九鬼さんの前身的な道士の登場は、見知った人の過去を覗くようで楽しかった。エロティックながら不思議にドライな空気も健在。絵は抽象に近いものや山水画が主で、音楽的だったり肉感的だったりと感覚にストレートに訴えてくる。堪能しました。