11月第4週

蝶には不案内なジャーナリストが蝶に関わる様々な人に話を聞くというもの。ブリーダーの話を聞いたら次は研究者へ、アーティストへ…と取材していき、ある意見を取り上げたならしっかり反対意見も聞いている。この態度自体は冷静でとてもいいと思うし、意見を並べて読者に問題提起するには申し分ないのだけど、その距離の取り方ゆえに、どの立場も人間の都合で蝶を利用している点では同じではないかと感じた。研究者は密猟も辞さず、保護論者にしても、結局は宗教や利己心が透けて見えるのがなんとも寒々しい。
 能の構造を特にワキの視点から解き明かす。能とは「異界と出会う物語」であり、その出会いのためにワキは己の生を無化して異界に近づく。ワキは生に対してある種の断念を選び、漂泊を通して異界へと入る。本書ではそのような生き方を提案しているがやはりこれは物語論と考えるべきだろう。西洋の物語にありがちな「主体的な自己が課題を解決する」という形ではなくて、過剰なまでに受け身の格好で、世界を幻想へと詩化する。本書で勧めているように旅でもいいし、様々なもの(たとえば読書)を旅に見立てて異界を垣間見るのも面白そうだ。