12月第2週

今の私には作者ならびにこの本に関わった人にお礼を言うことしかできません。マコーマックさん、いつも面白い小説をありがとう。このちんくしゃ野郎。
 
ボルヘス伝
ボルヘス伝
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ジェイムズ ウッダル
白水社
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文字どおりの伝記。作品だけではうかがい知れない作家の姿が見いだせる。特に性の問題が強調されており、この点、ややゴシップに傾きすぎるところがあるものの、等身大のボルヘスが浮かび上がってくる。母親や恋人たちの間で自身を不幸と考える内気なボルヘス、政治には疎いボルヘス、盲目の図書館長ボルヘス、夢見ることに生涯を捧げたボルヘス、イギリス好きのボルヘスジュネーブに眠るボルヘス……。

ある日、英国式朝食――卵やベーコンなどが出てくるあれ――の「複雑さ」にまごついたバスケスは、うっかりボルヘスのコーヒーに塩を入れてしまった。すると彼はこんな感想を口にしたという。「イギリスのミルクコーヒーは日に日にまずくなっていくね。」

その騒ぎの最中、一人の学生がボルヘスを「イーホ・デ・プータ」呼ばわりした。このスペイン語の言いまわしは、「ろくでなし」といったほどの意味だが、文字どおりにとると「売春婦の息子」となる。(…)ボルヘスは激昂した。杖を机に叩きつけ、その学生に講堂の外に出て決闘しろと挑んだ。

この日の話題は文学一色で、聴衆は一人残らずボルヘスの味方だった。質疑応答の最後に、これまで恋したことはありますかと尋ねられたボルヘスは、「はひ(イエシュ)」と答えたが、その瞬間、彼は勝利を手にしたのである。「聴衆はどよめき、ハプニングはそれでおしまいとなった。」