4月第2週

「青春」「颱風」「ガスパール・ルイス」を収録。コンラッドといえば「闇の奥」のような暗欝なイメージがつきまとうのだけど、海洋や異国を舞台にしたエンタテイメントも書いている。船乗りの経験を活かしたと思しき「青春」「颱風」は迫力満点の冒険活劇、「ガスパール・ルイス」はチリの革命戦争下の痛切なロマンを描いたもので、三篇ともに男くさく熱い物語だ。その核には生や愛の賛美といった普遍的なテーマが埋め込まれており、通俗と片付けられない神話的な趣がある。こうした心揺さぶる作品に触れることが読書の喜びなのかもしれない。
 「内通者」「伯爵」「秘密の共有者」「プリンス・ローマン」「ドルがあったばかりに」「武人の魂」を収録。コンラッドは出自からして一種の追放者であって、その経験は作品の随所に刻印されている。善良な登場人物たちは思いもよらぬ困難に出会い、ある者は打ちのめされ、ある者は誠実をもって切り抜けるのだが、皆一様に取り返しのつかない苦悩を抱えこむ。何かが決定的に失われて世界の裏側に滑り落ちてしまったような空虚さが、なんともいえない苦味となって迫ってくる。