4月第5週

マイセン 秘法に憑かれた男たち
ジャネット・グリーソン
集英社
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かつて東洋で作られた磁器は、西洋においては黄金に比せられるほどの価値を持っていた。他に先んじて磁器を開発することが危急の課題とされ、諸国は秘法を求めて競いあった。そんな中、一人の錬金術師がザクセン選帝侯の手に落ちる。本書は、「賢者の石」の探求に始まるマイセン磁器産業の歩みを描いたノンフィクションである。王侯貴族、技術者や職人、山師など、一癖も二癖もある人物が織りなす物語は、大河小説の趣さえあって無類に面白い。普段何気なく使う道具の陰にも素晴らしい物語が潜んでいる。
 
乾燥標本収蔵1号室―大英自然史博物館 迷宮への招待
リチャード・フォーティ
NHK出版
売り上げランキング: 110010
ゴーメンガースト城にも見立てられる大英自然史博物館を、古生物学の世界的権威である著者がユーモラスに案内する。各分野・歴代の研究者のエピソードが語られたかと思えば、合わせてそれぞれの分野の知見、特に根幹をなす分類学の考え方が述べられ、博物館と研究の意義がやさしく理解される。著者自身が属すところの古いタイプの分類学者を懐かしみつつ、アーカイブとしての博物館利用やネット目録といった将来の展望もフォローされているのがグッド。肩の力を抜いて楽しめる。
 ノヴァーリスとシュレーゲルらを中心にドイツ初期ロマン主義の歩みを描いた一冊。物語風に俊英たちの軌跡をたどることで、運動の展開と意義がわかりやすく示されている。教会の失墜やフランス革命などで「個」がクローズアップされた18世紀、従来とは違った形で世界をとらえる方法が模索された。無限への憧れ、ポエジー、百科全書的な知からなるそれは、ひとつの運動として地歩を固めていく。友情あり悲劇ありの熱い本です。