5月第2週

アントン・メスメルが創始した磁気催眠療法は、各地で物議をかもしながら、19世紀に至ってはフロイト精神分析へとたどり着いた。本書はクライスト、ホフマン、バルザックホーソーンらの作品から、メスメリズムが文学に与えた影響を読み解く。電気や熱などの「流体」が物に作用するという理論を元にしたメスメリズムは、術者の目から放たれた磁気が作用して催眠状態を引き起こすというあやしげなものになっていく。それは無意識の世界を、支配/被支配の関係を描き、20世紀には独裁者の手段にもなる……なんてのはできすぎな気もするが。
 
広告する小説(異貌の19世紀)
ジェニファー・A. ウィキー
国書刊行会
売り上げランキング: 1004209
広告はその誕生からいかに文学に依存し、模倣し、やがて文学を必要としなくなったのか。19世紀から20世紀初頭にかけての広告と文学の相克を描き出す野心的論考。主に三期に分けて、ディケンズヘンリー・ジェイムズジェイムズ・ジョイスの読解から見ていく。文学作品が複数の言説の寄せ集めから成り立っているのは当然として、ここまでまざまざと作品が社会的コンテクストに依存しているさまを見せられるのは、本叢書の中でもこれが一番かと思う。精緻な読みに蒙を啓かれた。