未詩

空が空を重ねる この蔭は冷たい猫を抱き 明るさのもとで伸びつづけた 夏の欠伸の白い傷を 追いすがる曳航に寄せ 戸惑いのなかば秘められている 七月

ねこみみ少年のうた

ねこみみ少年マスクをかぶって ぴかぴか原っぱ輪になっておどる ふるいセーターうらがえしに着て たがいのかげをふむだろう あかるくはれたひざしのしたでは しっぽはずんどこのびるだろう それぞれのきみが それぞれのきみに手をのばす くちぶえふいておい…

雫が落ちる 葉先から首へ 群れから別れた姿 風に撫ぜられ ふるえながら 路ばたの塚を かさなり濡らし 緑の胸に抱かれた 胞子が淡く光り また 朽葉のたまりに けものの鼻をうずめ 夢ごこちに 上手に噛まれ 無心である 死んだものや 火の息のような うずのなか…

勝負

白馬に乗って あなたはやってきましたね 白馬に乗って 菜種油を小脇に抱えて 白馬に乗って あなたはやってきましたね 八手先を見る 荒くれた将棋板の上に あなたはやってきましたね 白馬に乗って 菜種油を小脇に あなたはポーンを越えて そう 白馬に乗って …

夜想

男たちが寝起きする あなたの墓 ここに焼きつけられた 花を手折る 蹄のかたちをした月が巡る 誰もいない海が 見るなと言っている

断片

ヒマワリの根の国の夏に帰る … 人斬りが月を見て人を斬る うさぎが沼を見て溺れ死ぬ 魔物は鏡のなかのねぐらに帰る … 古墳の森を横目に過ぎて 散り敷く藁の道をさかのぼり 地底湖を覗きこめば むらさき色の喉の鳥 きらきらと夢のように泳いでいる

フンギ

脱税しました、とNKが言うものだから 「脱税しましたよ、俺」と言うものだから 森の動物たちは彼を恐れて 遠巻きに見守るしかなかった

手をのばす

表紙 白い腕 ささやき 弱った体 光に眩む目 裏表紙 うつろな荒野 血の枕 届かない影 かたくふれる壁の つめたさにふれる 壁 あるいは鏡 黒い水たまり 視線が かたくはね返っている はね返っている だけの 誰かが来て 誰かが帰る 誰もがいない それだけの

きのうの「ここに眠る」について。やっぱりもう少し推敲すべきだった。今になって読むと尺が足りなくて物足りない。一、二連と同じ形の連をもうひとつ書くべきだった。「紫の腕」を布団の中に入れてやったあと、例えば「青い腕」がそこらを嗅ぎまわって戸口…

岩のベッド 左手から舌の根まで いちまいの丸太を渡して骨盤をかさねる 生爪で魚を剥ごう 火を囲もう うずくまった草の汁の体勢で ぬめる夜をやりすごそう

夢の中で「頭で書かれた詩はだめだな…」という声を聞いてはね起きる。「生爪で魚を剥がす」って表現は何かに使えそう。途中で改行しても面白いかも。